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【前提条件】
- 2010/11/02(Tue) -
「高校最後のまともな冬休みだし、なんか企画でもやりますか」

そんな単純かつ難解なネタの主、行灯ばんです。
というわけで、冬季休暇中の宿題を追加で自分に課してみた。

『お題に完答する』

つーことで、以下はこのお題の基本方針をつらつらと。
二回目以降の方は読まずにすっ飛ばし推奨です。
が、初めての方は必ずお目通しの上、本編に進んでください



【CrazyDreamEarth】
 ・現代世界ファンタジーめいた背景設定
  →ただし設定は徐々に明かされます、むしろ全て明かされるかすらも謎
 ・ちょっとというかややというか暗めでシリアス方面直行
 ・危険要素込みの場合は一応注意おいときます
  →が、精神的にダメージを負いそうな方はご遠慮ください
 ・どこから読んでも話が通じるようで通じない構成になることうけあい
 ・あ、誤字脱字は必殺技です、ぬるく指摘があると有り難いです



了承いただけましたでしょうか。
尚、お題の一覧はこちらとなります

ではでは、どうぞお時間の許す限り…。
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【お題一覧】
- 2010/11/01(Mon) -
断罪アクィタス(アクィタス=公正)
ヴェリタスに嘲笑(ヴェリタス=真理)
あなたの姿が、そのまま救いだったと
夏の終わり、秋にはまだ早い
おしえて、どうして、わたしは、

安定剤の切れた夜明けほど頭は冴えるのさ
瞼にこびりついた夏の残像と耳に響く彼女の嗚咽
私は愛してる、他でもない君を(I LOVE YOU!)
燃え落ちた記憶と生まれたての大地
祈って、信じて、縋って

明日雨なら僕にサヨナラ
幾らで買われた、彼は嗤った
けれど答える言葉は持っていなかった
沁みる唇
てのひらの赫怒

口下手なんだ、と詐欺師は笑う
白い紫煙
聞き流すノイズ
閉塞、あるいは何も無い空間
深読みしないで、ただの言葉なのよ

うそつきはわたし
神は死んだ。そこで問うが神とは何だ。
好奇心こそがイドであるよ(イド=本能的衝動の源泉)
楔を打ち込んで、あたしの心が揺らがないように
「君には失望させられたよ」

さあ教えて頂戴
虹を渡る
沈黙の塔(沈黙の塔=ゾロアスター教で、死者の肉体を安置して骨にする場所。転じて「墓」)


【東】さんからお借りしました。
全28題、冬季休暇中に片付けます。
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【沁みる唇】
- 2009/02/26(Thu) -

【分類:‐】


「なるほど」

足止めを食らった三人組。
「探偵」スナ・フィッツジェラルド。
「護衛の剣」蒋初夢。
「護衛の盾」フィリング・ロード・ガヴェイン。
彼らは日本へ今直ぐにでも飛び立ちたかったのだが、天候がそれを許さなかった。
欠航に次ぐ欠航、それほどの大嵐が、あの英領ジブラルタルを中心に、イベリア全土に広がりつつある。
しかし人々は、これをただの大嵐、大雨であるとしか理解できない。
太陽の国にも、たまにはこんな天気の日もある。原因は、そのうち専門家が調査するであろう、と。
しかし彼らは、この異常気象が明らかに人の力を超えた何かにより生じていることに気づいていた。
――『彼女』の力。

「どうかしましたか、スナ」
「うん…カナデさんから、コンタクトが入っててね。丁度現場を離れたあたりで」
「それは珍しい」
「そして内容がまた物騒な話なんだよね」
「…それは、彼女に関して言うならば、珍しくはないですね」
「うん」

モバイルを指先で操るスナ。
空港のラウンジは、キャンセルを喰らった乗客らで溢れ返っていた。
そんな景色を眼下に収め、スナと初夢は港内のカフェに入っていた。
混んでいるといえば混んでいて、席を見つけられたのはほぼ奇跡。
勝因の一つは今がシェスタ時だからかな、と勝手に英国育ちの探偵は推理してみる。

「お陰様で大変レジが混んでました」
「だろうねー。店員さん、交代で昼寝するのかな?」

珍しく、ターコイズが色褪せている。
リンは三人分の紅茶と菓子をトレイに乗せ、疲れた様でやってきた。
きっと、レジで待たされること何分か、それすら覚えていない、という状況なのであろう。

「慣れない国でお茶するのも疲れるわ…」
「まあまあ。逆に言えば経験だよ、リン」
「…何が逆なんですか」

そんなタイミングで、震えるスナの白いモバイル。

「あ、きたきた」
「誰から?」
「カナデさん。…うわあ」
「どうかしたんですか」
「今どこにいるんだって聞かれて、マドリード国際空港だって言ったら、『紅茶四杯準備しておいて』って」
「…うわぁ」
「だから今度は、初夢が列んでね」
「…わかりました」

どうせこうなるってわかってましたよ。
慣れないユーロを片手に、彼は緩やかな列へと接続する。
その光景を見ながら、メールに返信。

「カナデさんかあ、そういえば暫く会ってないね」
「僕も、最後に会ったのは一昨年かな。ほら、初夢を護衛にくれるからって」
「ジャンを物扱いか…。スナ、本人聞いたらきっと怒るよ?」
「それはないと思うけどなあ。…リンは知らないかもしれないけどね、初夢は孤児だったんだよ」
「え…」
「それで天宮家が引き取って、育てた。もちろんカナデさんじゃなくて、その先代の時代だけどね」
「ふうん」

手元の紅茶に、スナは二つ、リンは一つの角砂糖。
まだ熱いうちに溶かしておかないと、溶けなくなってしまう。
…一方、遠くに見える初夢の列は、まだまだ彼までは時間がかかりそう。

「でも、天宮家のことだし…ジャンも、何かしらあったんでしょう?」
「何かしら、というと」
「…ほら、戦闘力、とか」
「確かに」

察しがいいね、と紅茶の水面から上げられた黒い瞳。
開きかけた口を、阻止するかのようなモバイルの着信バイブレーション。
差出人は、勿論彼女。

「…。十分後にこっちへ客が来るから、彼らを飛行機に乗せて一緒に日本に来い、だって」
「十分かあ」

紅茶は、ぎりぎり間に合うか間に合わないかだなあ、とやはり列を眺めて。
でも、やっぱり温かい方がいいから、丁度いいタイミングで初夢がオーダーできたらいいなとリンはひとりごちた。

「初夢は、孤児に『された』んだ」

そして唐突に話を戻し、語り出すスナ。
紅茶で喉を潤して、甘いケーキを少しだけフォークで切り分けてから。

「彼にはね、四歳か五歳の頃まで、ちゃんと家族がいたんだよ」
「…なのに、捨てられたの?」
「ううん、殺されたんだ」

とても、喧噪の中でする話ではない。
かといって、静寂な室内にも似合わない。
どこでもいつでも、こんな話はするものではない。
しかし彼は、語ることをやめられない。

「名前は伏せるけど、彼の本当のファミリーネームは『荊』…中国有数の刺客集団、荊家のもの。
 残念ながら彼らは、ある些細な事件をきっかけに、他のグループに目を付けられてしまったんだ」
「些細な事件って…」
「『彼女』の気まぐれ、とでも言うべきかな? …リンは『睚眦の刀』のこと、聞いたことある?」
「! ちょっと、まさかそれって…」

竜はある時、九匹の子を生んだ。
その子達はそれぞれがあまりに似ておらず、またあまりに違う性格をしていた。
彼らのことを、「竜生九子」と伝承は語り継いでいる。
そしてその伝承に基づき、遥か昔、その九匹をモチーフにした九本の刀が創られた。
戦乱期の中国において行方不明となったその刀は、やがて力の象徴となり、各朝廷はそれを手に入れようと血眼になった。
しかし、誰もその刀を握ることは出来なかった――。

「何故なら、あの刀は所有者の正気を糧に力を発揮する…特に、『睚眦の刀』は異常なまでの狂気を持っているからね」

睚眦。
それは、殺戮を好む、狗の頭を持つ龍。

「荊家はね、その実験台にされたんだ。
 ある日、突然やってきた『睚眦の刀』を持った男に、一族郎党皆殺しにされたんだよ。
 …初夢は、確かに殺されたと思ったらしい。けどね、今、生きてるでしょう」
「…」
「両親に兄姉…彼らが必死になって、初夢を庇って、代わりに死んだんだ」

どんな惨劇を、『彼女』は望むのか。

「…次に目が覚めたとき、彼はとんでもない腐臭と、変わり果てた家族の抱擁の中にいた」

『彼女』は、どんな生命にも容赦をしない。
たとえどんな幼子であろうとも、情けをかけない。

「『睚眦の刀』は、無くなっていた。でも、それを所有していた男はその場にいた。…殺されていたけどね」
「…死を以て、償う…ってこと?」
「まあ、そうかな。強大な力の代償は、私的には命だってまだまだ不足だと思うけれども」

リンは、ケーキと紅茶に手を伸ばす。
フォークで一口大に切り分けたそれを口に運びながら、そういえばどうしてこんなに血なまぐさい話をしているのにケーキを食べていられるのだろうと思い、小さく苦笑した。

(ああ、『彼女』のせいね。…馬鹿みたい)

顎の下で両手を組み、じっと紅茶の水面を見つめるスナ。
彼もまた、話しながらひょいひょいとラズベリーのケーキを食べていた。

「…で、彼は「たまたま」彼の拠点の近くを通りかかった、天宮家の先代当主に拾われた。
 天賦の才と、なんというか…失われた正気を補った狂気が、彼をあそこまでの戦闘狂にさせた」

初夢は、特定の武器を持たない。
それこそ、例えば今テーブルの上にある紙ナプキンでさえ、武器にして戦ってしまう。
異常なまでの戦闘力と、精神力。――それが、『彼女』が彼に与えた力。

「…それで、一昨年。僕は「たまたま」カナデさんと出会って、同時にその頃から騒がれ始めたアイツを追っていた」

怪盗ソレイユ――。
変化自在な、現れる度に異なった背格好をし、定番の満月の夜から白昼堂々まで、芸術的と言っていいほどの盗みをはたらく。
そしてどうしてだか、ターゲットになりやすいのは、高価な宝石ではなく、武具の類。
その理由は、一般人には理解することが出来なかった。

「ソレイユが盗む道具は、君のガラティーンみないなものばかり…明らかに、『彼女』と一枚噛んでいる」

スナは、リンの首から提げられた小さく質素なシルバーアクセサリーを見遣った。
それこそが、『太陽に住まう鷹の剣』ガラティーン。
彼女の愛用する二刀剣の内、『悪夢』と戦うときのみその真の姿を晒す剣である。

「…そして、ね。『彼女』は実によく考えたよ。
 僕の追っているアイツには、スポンサーというか、バックアップをしている組織がいたんだ」

犯行現場に、見てくれと言わんばかりに置かれているメッセージカード。
まるで追ってこい、と、自ら誘うような餌をまく。

「カードには、鳥の紋章。…その鳥は、中国における伝説の存在を象っていた」

金色に、紅色に、朱色に、青色に、輝く幽玄にして夢幻の翼。

「凰。…それは、ある暗殺者集団のシンボルマークと酷似していたんだ」

鳳凰、とよく言うが、実際は鳳は雄、凰は雌といった具合に、一対のつがいの名前である。
ソレイユは、凰を。そしてある集団は、鳳を。

「…鳳家。それは、僕の敵の保護団体であり、初夢の家族を殺した集団でもある」

『彼女』は、二本の糸を一本に寄り合わせた。
そして間もなく其処に三本目の糸であるリンが加わり、復讐劇の幕は上がったのだ。

「まあ、僕なんかは軽い理由だけどね。…あいつのせいで、迷宮入りした事件があったから」

事件としては、単純な殺人事件の筈であった。
ところが、それを立証するための証拠が無かったのである。
それをでっち上げるわけにも行かず、ついには犯人とされていた男までもが変死を遂げて、事件は有耶無耶の儘に終わってしまったのだ。

「じゃあ、もしかしてあたしだけ仲間はずれ?」
「んー…まあ、そうかも。リンは別に、そういう意図じゃないもんね」
「そうそう。ただ、良い仕事があるからやらないかって言われただけ。…正直、あんな飯事をやるより剣を握る方が好きだしね」
「でも、お母様は反対してなかったっけ?」
「してたわよ。でも、私にこの道を進めたのは父だし。最後はほぼ無理矢理の無断同然で出てきたの」
「ほう」
「『彼女』のことを知りながら、ああやって箱入り娘みたいに、結婚の道具みたいに育てられるのなんてまっぴらだったもの。せいせいしたわ」
「確かにお前は今の方が似合ってるな」
「げっ初夢」
「…スナ、あなたもしかして、」
「ああごめん、ざっとだけど喋っちゃった、僕たちの馴れ初め」
「…その言い方は誤解を起こしかねませんのでやめてください」
「あ、ジャンが照れてる」
「煩い!」

手には、熱々の紅茶を乗せたトレイ。
ひとつひとつを丁寧に、机上に並べる手は、一見とても美しい。
だが、スナは知っている――その手は、身体は、幾重にも血を塗られ、塗り重ねられてできているのだと。

「…」

紅茶を一口飲んで、口内を湿らせる。
復讐の道を生きる、数奇でいてしかし現実にある世界。

(…まだ、終わらせない…絶対に…)

それはまた、『彼女』の狂気にも似た世界。
幾度も幾度も噛みしめて、傷ついて、癖となってしまった…切れた唇に、紅茶のほの甘さが、鋭く沁みた。
 



 
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【弱き者よ、汝の名は、】
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【瞼にこびりついた夏の残像と耳に響く彼女の嗚咽】
- 2009/01/29(Thu) -
【分類:―】

俺の名前は、雀照弥勒。
『じゃくしょう』、という名字はかなり珍しいらしく、初対面の奴とは必ず話題に上る。
そして、『みろく』。こちらは渋いにも程がある。
フルネームで呼ばれると、まるでどこかのお偉いさんか、或いはご隠居のように思われるが、実際俺は男子高校生だ。
…かなり、常識から外れた『世界』に住んではいるが。

事の始まりは、二年前。
中学三年生の、八月のこと。
――その日に、俺はすべてを知った。

「弥勒、同居させてくれる?」

その更に半年前から付き合っている彼女が、いきなり自宅を訪れた。
よくある夏休みの昼下がり。遅めの昼食に、半分寝間着姿の俺。
まだきちんと覚めていない頭では、その言葉の意味を割り出すのにかなりの時間を要した。

「聞いてるの、弥勒」
「…。って、ちょっと待てよ!」
「待てない。あがらせて頂戴」

勝手知ったる、とばかりに上がり込む。
肩に掛けた、まるで友達の家で一晩お泊まりをするだけのような量の荷物。
それが、どうして同居とつながる?

「お前、俺がどうやって暮らしてるか知ってるだろ?」
「ええ。ご両親がいらっしゃらないからここに預けられてるのよね」
「じゃあ何でいきなり同居なんか…」
「だって、ここしかなさそうなんだもん」
「おい」
「家賃代わりといっちゃ何だけど、ご飯作るから。お洗濯もする」
「そうじゃなくてだな…」

俺は、目の前で正座してクソ真面目に自分の言い分を吐き出す彼女――龍造寺葉子の肩に手を乗せた。
落ち着け、という意味合いを込めて。

「確かに、俺は両親が失踪した七年前からここに預けられている。
 生活にも不自由なんてしてないし、高校にもなんとか上がれそうだ。
 でも何でそんな俺の所にお前が来るんだ?」
「いいじゃない、彼女だもの」
「それは理由にならない。…第一、」

葉子の体が、びくん、と揺れた。
掌越しに伝わる衝動と不安。
それも気にせず、否、気にしてはならないと思い俺は問う。
彼女のためだと思い、またそれを信じて。

「お前、家はどうした」

瞬間。
葉子の煉瓦色をした瞳から、俺の姿が、消えた。

天宮さんは、俺を部屋から追い出した。

あの直後、俺は泣きじゃくる彼女を連れて天宮さんの元を訪れた。
そして軽く事情を話し、天宮さんは葉子から直接話を聞きたいらしく、また、いくら彼氏とはいえ、男がいたら話せないこともあるかもしれないからと、こうなってしまったわけだ。

天宮さんの部屋の前の廊下の壁に背をもたれ、ため息。
それはそれは高い天井に、全ての音が吸い込まれてゆく。
控えめに開けられた窓から侵入してくる蝉の鳴き声さえ、静かな空間。
馬鹿みたいにデカい、そして豪奢な洋館を改造したアパート…むしろ寮。
その一階、ロビーとほど近い部屋に彼女は住んでいる。
天宮さんは、俺みたいに両親が行方不明だったり、あるいは俺の隣の部屋に住んでる武林みたいに両親が不在の連中をほぼ無償で預かり、世話してくれている。
どこからその資金が出ているかは謎だが、どうも代々それをやっている様で、現に俺が引き取られた時の責任者は男の人であった。
彼のことは、よく覚えていない。ただ、とても背が高くて、黒い服が好く似合う人だった。
五年前に責任者が天宮奏さんという、二十歳そこそこの人に変わってから、入居者数は少し増えた。
現在の住民は、俺も含めて九人。全員が近場の聖華学園に通っている。
特に武林陸は俺と葉子共通の友人で、それもあって彼女は俺を訪ねたのかもしれない。
ここなら受け入れてくれるであろう、と。
しかしそこまで受け入れは単純でなく、俺や武林はいわばイレギュラー――基本は、学園や天宮家の筋からの紹介がなくてはいけないのだ。
そしてそれらがあったとしても、ここに入れるかの最終判断は奏さんに委ねられている。

今頃葉子は、家に戻るよう説得されていることであろう。
確かにあいつの家は、堅苦しくて身の置き場がないような空間だ。先天的にそうであったのか、また後天的に反動としてなったのか、自由奔放な気性の葉子にはまるで似ても似つかぬ由緒ある家柄。
一度だけ、彼女を家まで送り届けたあの日。雨の中に浮かび上がったのは、陰鬱と横たわる母屋と数々の蔵、それらを覆う土壁、それに幾度も換えられたであろう木製の門扉。
ただでさえ『家』と背中合わせの毎日を送らねばならなかった彼女を更に追いつめたのは、保守的な祖父母、両親、そして兄という重圧。
話に聞き、そして本人を見る限り、葉子は家に帰るのを嫌っていた。
しかし、どう足掻いても拒絶できない日々を、十四年間耐えて…とうとう、逃げ出したのであろう。

「弥勒君」

いきなり流れ込んでくる夏の音の洪水。
紛れて、奏さんの声。
薄く開いた扉の向こうからは、低く短い嗚咽があふれていた。

「あなた、家の場所、わかるわよね?」
「あ、はい。一度行っただけですけど…」
「ちがうわ。弥勒君の家の場所よ」

奏さんはそう言って、小さく手招きした。
いきなり何だろう、今は誰も住んでいないながらも手つかずで残っているあの家に用事なんて。
両親は別に、借金や負債、その他諸々の事情で夜逃げしたわけではないというのはわかっていた。
しかしそれなら何故、俺をここに置いていったのか。ロクな物も持たずに、消えたのか。
悶々とした、それでも最近は忘れかけていた『謎』。
そんな俺の内心を知ってか否か、奏さんは俺に耳打ちした。

「彼女はうちで預かるわ。
 だけどね…本当に彼女が大切なら、あなたが事情をわかってあげてほしいの。

 これで、あなたの家に行きなさい。そうすれば、きっと『真実』が解るから」

ちゃり、と掌に落とされた二連の鍵。
俺は迷うこともなく、それを握りしめる。
再び閉じられた扉に、葉子の嗚咽に背を向けて、知らず知らずのうちに駆けだした。
この屋敷から学校を挟んで、丁度反対側にある俺の家だった場所まで。

狂うくらいの、夏の日差しの中。
汗ばんだ掌の中の鍵は、いつまでも氷のように冷たかった。

それはきっと、その先にある不安そのものだったのだと、今更感じる。
鍵を開けた中にある、『世界』の『真実』…そのものだったのだと。

――その日に、俺はすべてを知った。
葉子と同じように、俺はすべてを知ってしまった。

蛻の殻となったあの家の中には、厚く埃が積もっていた。
その最奥、俺が一度も入ることを許されず、また固く閉ざされていた両親の仕事部屋。
取り付けられていた錠を、鍵で開ける、あの軽い音と重い扉。

舞い立つ塵芥、砕け散る『世界』。

俺はその時初めて、両親が人の道ならぬ外道の研究をしていたことを知った。
…無数に散らかる試験管と、そこから溢れ出て腐り干からびた小さな人骨の破片を見て。

後から聞いたのだが、葉子の家は正真正銘の陰陽師の血筋で、彼女は誤って後継者以外が得てはならない『真実』を手にしてしまったのだという。
あの家の、入ってはならないと彼女が言われ続けた蔵の中で。
結果、葉子は勘当。事実上、殺された。
だから俺を頼り、そして奏さんに引き取られたのだ。

奏さんは、この『世界』を存在させている意識、俺たちが呼ぶところの『彼女』に干渉ができる特別な力を持ち、故に更なる力を望んだ。
それは、『彼女』を目覚めさせることによりその『夢』であるこの『世界』を滅ぼすことを強く欲する、もう一人の干渉能力保持者を牽制、ないしは抹消するための力。
――いわば、俺たちは彼女の兵、有り体に言えば手足であり駒である存在。

俺も、葉子も、それから武林も、その為だけに飼われていたに過ぎないのだ。
しかし、それすら、救いに思えるこの『世界』の儚さ。

あまりに脆弱すぎるそれを、下手をしたら自らの重みで崩壊するそれを、『世界』を守るという道。
あの夏の日から、俺はその『世界』を生きている。
――彼女たちと、一緒に。



24/28
【Boy meets“Girls”】
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【あなたの姿が、そのまま救いだったと】
- 2009/01/29(Thu) -
【分類:創世神話】

出掛けた三人、留守番も三人。
前者は先日失敗した偵察をやり直しに、都内のある邸宅へ。
後者は先程覚醒した青年を寝かしつけ、そのままその場に待機する。

「ご苦労様、ドクター・イチヤク」
「プロフェッサー・アルハザドこそ、お疲れ様です」
「いやいや。教授ではなく、ただのアブドルでいいですよ」
「でも…」
「礼儀なんて結構。それに私は、教授なんてガラじゃないですし」
「…では、アルハザドさんとお呼びしても良いでしょうか?」
「わかりました。でも、それも言いづらくないですか?」

結局、二人は互いを「アブドルさん」「アカネさん」と呼ぶことにした。

「ところでアカネさん。私は君のことを、名前しか知らないのです。よろしければ自己紹介を」
「するな。そいつと話すな、アカネ」
「あ、嫉妬ですかクラウス」

違う、と瞬時に顔を赤らめて言おうとした病人は、やはり瞬時に彼よりも若く小さな、しかし彼と比べれば遙かに健康的な医師の手により押し倒されてしまった。
…羽毛の枕に強かに頭を打ち付け、悶絶。

「寝てたんじゃなかったんですかクラウスさん! 今の貴方は変な話呼吸をするだけでも衰弱してしまうんです! だから寝ててください!」
「…だったら、枕元で話をするな。それに、寝ていても呼吸はする」
「起きていた方が消費は激しいです」
「なら部屋から」
「出ていったらそれこそ何をされるかわかりません、クラウスさんが」
「それは私にということかな? 大丈夫、私は彼を愛しているから、彼を悲しませたりはしないさ」
「違いますアブドルさん。というより何をする気ですか」
「いや、彼と愛を育もうかと」
「煩い黙れ変態消え失せろ」
「だからクラウスさんこそ黙ってください!」

ばん! とアカネはサイドボードを叩いた。
会話が混沌としている中では、これが最も効果的。

「いいですか? 私はクレオさんから『アイツから離れないで面倒を見てやってくれ』と言われました。
 思い出してみてください、クラウスさん。貴方は今日の昼間、どうして私に叱られたんですか?
 …ええ、勝手にこの部屋から出ようとしたんですね。困ります。すごく困ります。だから監視がつくんです」
「だって」
「いきなり拗ねないでください」
「…調子のいい日は、空くらい、見たい」

その部屋はまるで、監獄のようであった。
六面体の一方にはフローリングの床、四方には何もない壁、残り一方にはただ一つの外界への出入り口となる扉。
常に快適な温度に保たれ、『彼女』からの干渉も最低限に抑えられた結界の中。
閉じられた空間には、世界を感じ取れる要素が一つもない。

「クラウス、そうならそうと早く言えばいいのに」

アブドルがそう言った刹那、まるで手品のように部屋が『空』に染まった。
どこまでも青い、蒼い、底抜けに広がる空の色。
目を奪われる青年、久々に空を見た彼はそれに全てを連れていかれた。
だから、その手品の種も仕掛けも別に知ろうとはしなかった。

「秘密、ですよ」

アカネに向かって口止めするアブドルの赤い瞳。
血の色をそのままに映すそれは、いたずらを成功させた子供のようにきらきらと輝いていた。
その手には、どこからか取り出した、小さな自宅用プラネタリウム。

「それ、ですか?」
「はい。少し改造してみました」
「でも、それをどこから…」
「自宅から引っ張りだしてきたんですよ」

彼は右手をひらひらとさせる。

「この手とあらゆる道具とを、私は常に『糸』で繋いでいますからね。
 …『彼女』から授かった力を、無理矢理ですが日常に応用してみました」

きらきら光る、空色を僅かに跳ね返す、不可視の糸。

「私はこれを『グレイプニル』って呼んでますけど…ってあれ、クラウス?」
「あら…寝ちゃいましたか」

やはり、消耗が激しかったのか。
躯の電源が、省エネルギーモードに突入したらしい。
そこにいるのは、虚構の大空に抱かれて眠る本当の少年。

「…。つけたままに、しておきましょうか」
「ええ。患者のためにも、お願いできますか?」
「わかりました」

虚飾の空は静かに、雲を漂わせて、そこに存在していた。

「…さて、改めて自己紹介をしていただいてもよろしいですか?」
「患者も落ち着きましたしね」

彼女は、一薬茜と名乗った。

「クラウス・ファインヤード殿の主治医として、クレオ・ファルフェイ殿に雇われています」

髪型はポニーテールで、服装はポロシャツと膝丈のスカート、その上に白衣を羽織った姿はまるで科学の実験をしている女子高生。
童顔なのか、それとも本当にそんな年齢なのかということは、アブドルにとってこれっぽっちも重要な問題ではない。

「…私の力じゃ、患者を生き延びさせるので、限界ですが」
「いや、それでいいんだ。それに、それが…どちらにせよ、限界なんだろうね」
「…責めないんですか」
「はい、性分に合わないもので。第一、私は彼が死んでもそんなに悲しみはしませんよ」
「…へ?」
「そのためには、君にこの『世界』――『彼女』の『夢』について、今知っている以上に知ってもらわなくてはなりません」

私は『彼女』に触れて『真理』を知る以前から、文化人類学者として世界を飛び回っていました。
その頃から世界に偏在する信念や思考の研究を行い、その一環として、ある中東の宗教遺跡を訪れた際、私は『真理』に触れてしまいました。

「その時から総白髪になりまして。眼は遺伝で生まれつきですが。なんだか『異端の研究者』を体言したかのようになってしまいました」

その後も、各地で『悪夢』を退けながら研究を続けるうちに、あるひとりの男と出遭いました。
彼と出会ったのは四年前、ニューヨークの摩天楼の奥底。

「彼は不思議な人でした。
 彼はまるで、ありとあらゆることを知っていそうでした。
 …そんな微笑を、諦念を常に顔に浮かべて、彼は私に語り出しました。

 『真実』の、それも巨大な断片を」
 

『世界』のハジマリ――。

『宙』では闇と銀が渦巻いていた。
『地』では白と黒が渦巻いていた。

『宙』でその流れが堰き止められた頃、
『地』でもまた流れは沈殿していった。

 

「彼が語り、私が語るのは、『地』の物語」

 

『世界』のナリタチ――。

白と黒は交差し、凝固し、ひとつの『種』を生んだ。

『種』は『宙』からの光と、雨と、熱で目覚めた。

『種』は芽吹き、やがてそれは『意識』を抱いた。
 

『意識』は知った、自分が一人である事を。

『意識』は織った、自分が幼いという事を。

 
『意識』は夢見た、自分が寂しさを覚えない夢を。

それから『種』は沢山の枝と、沢山の葉を繁らせた。

 
そのひとひら、ひとひらに、『意識』は『世界』を想像した。
 

『意識』は夢見た、自分が『宙』へ手を伸ばす夢を。

それから『種』は『宙』を目指した。

 
しかしいくら枝葉を増やし、『世界』を創っても、『種』は『宙』に届かなかった。
 

『種』はいつしか『樹』となっていた。

『樹』はいつしか『地』を覆い尽くしていた。

『地』はいつしか『樹』を支えきれなくなっていた。

 

「『意識』はそれでも、『宙』に焦がれた」

 

『世界』のホウカイ――。

『意識』は様々な存在を夢想した。

それは、自らの崩壊を止めるための『枷』。

 
『樹』に蔓延り、病と悪疫とを振りまく『害虫』。

その重く、腐敗した枝葉を切り落とす『断罪者』。

それらを見守り、彼らに的確な指示を出す『門番』。

 

「『門番』が『樹』を監察する。
 その指示を『害虫』が受け取る。
 喰い荒らされ弱った枝葉を『断罪者』が切り落とす。
 切り落とされた『世界』は『地』を肥沃に、『樹』を養う糧となる」

 

『世界』のユクスエ――。

『樹』は『宙』を目指し、近づいていった。

しかし徐々に、『意識』は気づいていった。

 
二つは決して交ざりあわないという結末を。
 

同時に、『樹』の中で圧し黙っていた白と黒は、自分たちが生んだ存在の悲しみに触れていた。

故に、ひとつの賭を始めた。

 

「『樹』の『世界』は、『宙』を求めた夢想から生じたもの。

 ならば、その夢想から覚めれば、『意識』は悲しまないのではないか?
 しかし、その夢想から覚めても、『意識』は悲しむのではないか?

 白と黒は、考えました。
 そこで彼らは、『意識』の夢のひとつに、判断を仰いだのです。
 『世界』を生かすか、それとも殺すか。
 ――その『世界』は、」

 

(その『世界』は、ここ、だと言うのですか?)
(はい。だから私は、あなたに頼みに来たのですよ)
(…偶然、遭ったばかりじゃないですか)
(さあ? 偶然と必然は隣り合わせの存在ですよ)
(…)

(白と黒は、その『世界』によく似た二人の存在を送り込みました。
 その二人はいつしか己の存在意義に気づき、対立するようになりました。
 『意識』…あなた達の言うところの『彼女』を、眠らせておくか、目覚めさせるか。
 賭は、どちらかが死ぬまで、続く)
(…陰惨な賭、ですね)
(そうですね。そして残念なことに、対立はまだ続いているのです。
 双方の駒の寿命は等しくできており、生まれるときもまた同じ。
 くるくると輪廻を繰り返して、永劫に等しい時間を、ただ相手を殺すためだけに続けてゆく)
(それは、本当にずっと同じことしか繰り返していないということですか)
(今までは。でも今回は、少し違った展開になっています。
 ――私が、『彼女』の指示で、介入を始めましたから)

(…やはり、ただ者じゃありませんでしたね、あなたは)
(ええ。私は介入しろと言われただけで、勝手に動かさせてもらっています。
 …それすらきっと、今、あなたに全てを語っていることすらきっと、『彼女』の『夢』なのですから)

(…で、私にどうしろと?)
(はい。あなたには、)

 

「『ある人に会ってほしい。助けるか助けないかは、あなたが決めてください』。
 そんな無責任な言葉と、あるマンションの一室の住所を教えて、彼は人混みへ消えてしまいました。
 …そして、私は、クラウスに出会った」
「…」
「今ほどは衰弱していなかったとはいえ、決して健康とはいえなかった。
 クレオさんとその下ぼ…手下は既に、彼に心酔していたようですがね」

そうして私も、彼らと同じく。

「私は『彼女』を憎みました。
 私はクラウスを敬愛し、生きていてほしいと願っている。
 しかしそれを裏返せば、『彼女』の目覚めとなってしまう。
 …わかりますよね? 彼の勝利で『彼女』が目覚めたら、『世界』は消えてしまう。
 『世界』の消滅は、あなたも私も、クラウスも、それこそ『夢』のように、二度と戻らなくなる。
 かといって『世界』が継続するためには、彼がいつか死ぬということを受け入れなくてはならない。
 …私も、実のところ、よくわからないのです。私が果たして、何をしたいのか」

プラネタリウムが、満天の星空を描き出す。
留守番の三人を、厳かに包み込む『宙』。
それは『彼女』が求める光。

「今は、彼の姿を見ているだけで満ち足りた、救われたような気持ちになりますが」

その光に、手を伸ばす。
手を伸ばしても、届かない。
――『彼女』はそれでも、『夢』を抱くのか。

「そうだ。…忘れてました」
「?」

アブドルは、クラウスの髪を優しく梳きながら。
茜は、クラウスの体に毛布を優しく掛けながら。

「何故、この『世界』が、賭の舞台に選ばれたのか」

それは、とても簡単な理由。

「この『世界』は、今、全ての『樹』の葉の中で、一番『宙』の近くに存在しているんですよ」

だから彼は、空は、全ては――。



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【世界樹の神話】
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